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昭和シェル石油男女賃金差別事件 

東京高裁判決に対する原告並びに弁護団声明

1 2007年6月28日、提訴後14年3カ月を経て、ようやく、原告野崎光枝さんが訴えた昭和シェル石油株式会社の男女賃金差別事件の控訴審判決が東京高裁(第14民事部 西田美昭裁判長)で出された。2003年1月に出された一審・東京地裁判決は、被告会社に40年勤続して定年退職した野崎さんの訴えを、慰謝料の支払いを除いてほぼ全面的に認め、約4536万円を支払うよう会社に命じたが、控訴審では、会社側の主張を相当に採り入れ、消滅時効の主張を認め、認容額を約2050万円に減額した(元金のみ。遅延損害金を含めると約3000万円)。
高裁判決は評価すべき点もあるが、本件が、大手石油会社における組織的かつ悪質な性差別事件であること、そして、野崎さんが被った生涯における損害の大きさを鑑みるならば、控訴審判決は極めて不十分であると言わざるをえない。

2 高裁判決の評価すべき点は、以下の7点である。
(1)同学歴・同年齢の男女社員の中で、資格及び本給に著しい格差が存していた場合、合理的な理由が認められない限り、性の違いによるものと推認するのが相当であり、会社の制度上、いわゆる大量観察による方法論は不適切との会社の主張を退け、裁判において男女差別の有無が問題となったとき、立証の一つの方法として、大量観察の方法により行うことができると判断した点。
(2)1985年の合併に伴い、合併前の会社から新資格に移行させる際に、野崎さんを、同じ資格の男性全員よりも低い資格とし、その後も1段階昇格させただけに留めたことは、女性であるがゆえの賃金差別(労働基準法4条違反)であって、故意による不法行為であるとした点。
(3)1985年に成立し、1986年4月1日に施行された(改正前)雇用機会均等法8条では、事業主は、男女労働者の昇進における均等取扱いの努力義務が規定されており、この規定は、行政的措置が予定されており、「単なる訓示規定ではなく実効性のある規定である」から、「努力をなんら行わず、均等な取扱いが行われていない実態を積極的に維持すること、あるいは配置及び昇進について男女差別をさらに拡大するような措置をとることは、同条の趣旨に反するものであり、不法行為の成否についての違法性判断の基準とすべき雇用関係についての私法秩序には、上記のような同条の趣旨も含まれるというべきである」とした点。
(4)2001年に発覚した「職能資格滞留年数」という会社が秘密裏に作成した昇格管理基準(裏マニュアル)について、詳細な事実認定を行い、「サンプル調査の結果」との会社の主張を退け、合併(1985年)から少なくとも1993年までは、同様の基準で、昇進について女性を男性と「均等な取扱いしないことを積極的に維持していた」と判断し、1988年以降に野崎さんを昇格させず据え置いた点が違法であって不法行為にあたるとした点。
(5)合併後、会社は、野崎さんに対し、少なくとも2段階の昇格を目標とする措置を講じる努力をすべきであったと認め、退職時の野崎さんの本給額30万7970円を39万7760円に是正する内容で、月例賃金及び賞与の差額の損害賠償を会社が支払うことを命じた点。
(6)過去分及び将来の公的年金の差額分の損害について算定をして会社に支払を命じた点。
(7)経済的損害とは別に、慰謝料200万円の支払を会社に命じた点。

このうち、(3)の1997年改正前の均等法8条については、いわゆる努力義務規定であって、男女別取扱いは直ちに私法上違法とはならないなどと、私法上の効力を否定的に解する不当な判決が地裁レベルで続いていた。その中で、会社が、均等でない状態を是正する努力をなんら行わず、積極的に維持・拡大することは私法秩序に反し、違法であると明確に会社を断罪した点は、均等法制定の趣旨及び立法過程から、極めて当然の判断ではあるものの、画期的である。

3 他方、本件高裁判決には、極めて重大な問題点も持っている。
(1)合併時の1985年までの32年間の男女差別について、不法行為ではないと判断した点。
野崎さんは、一般事務職として職種の限定なく採用され、5年間、一般事務を担当した。ところが、その間に会社外で専門学校に通い、和文タイプの資格を取得していたところ、会社が野崎さんを和文タイプ業務に配転し、以後野崎さんは約21年間、和文タイプ業務に専従させられた。この和文タイプの業務について、控訴審判決は、「習熟するまでに一定の時間と努力を要するが、それを取得した後は、集中力、注意力の維持は必要であるが、職務遂行の困難度は高くない」などとジェンダーバイアスに満ちた判断を行ったうえ、会社が「特殊職」と位置づけていた、その後の英文タイプ、国際テレックス、コンピュータ端末入力、パソコンによるデータ伝送等の業務も本質的には相違しない、などと認定して、男性と「同価値の仕事」をしていたとは言えず、「その当時の我が国における一般的な」男女間の賃金格差等を総合すると、1985(昭和60)年の会社合併までの会社の賃金・資格格差は不法行為とまでは言えないとしたのである。
(2)資格の是正が極めて不十分である点。
高裁判決は、合併時、野崎さんがD2という低い資格に格付けられていたことを前提に、同じ資格の男性は全員合併の際にG1となったことから、これより下に格付けることは違法であるという理由で、是正すべき資格をG1とした。しかし、合併前にD2に格付けられていた男性社員は20代の若年者であり、合併時、勤続32年となり、「時代に応じて自ら技術を身につけ、それによって業務を行い、会社に貢献をした」野崎さんを合併時、20代の男性と同じようにG1に格付けるというのは、それ自体が差別である。
高裁判決も認定しているとおり、国際テレックス専任であった男性社員と野崎さんとは、「同じような仕事」を担当しており、国際テレックス専任の男性社員の「格付けが高すぎるという証拠はない」のであるから、野崎さんの資格を、この国際テレックス専任の男性と同じS2に格付けるべきだったのである。
(3)賃金決定の手段にすぎない本件会社の職能資格等級の決定について、労働基準法4条の問題ではないと読めるような曖昧な判断をした点。
高裁判決は、「職能資格等級の格付けは、賃金の額に直結する問題ではある」とは認めているにもかかわらず、「職務、能力、勤務態度、責任等の定常的な評価の結果の反映の意味もある」と述べ、「評価に基づく職能資格等級の格上げ、据置等の取扱いは、直ちに労働基準法所定の賃金についての取扱いといえるわけではなく」「均等法8条所定の労働者の昇進についての取扱いに当たる」とした。
しかし、本件では、会社の合併の前後を通じ、男性社員は、全く同じ仕事を20数年間ないし30年間変わらず担当していても、一定の年数が経過すると昇格し、賃金が増加している事実が認定されている。本件会社において、職能資格等級は、職務と全く関連しておらず、賃金を増加させるための手段にすぎないという点を本件高裁判決は看過しているのである。
本件高裁判決では、会社が職能資格等級制度のもと、滞留年数を男女別に設定していたことが認定されている。したがって、本件はまさに男女別賃金表を設定していたに等しい事案であって、この職能資格等級の昇格が、改正前雇用機会均等法8条所定の「昇進」についての取扱いに当たると解することには相当の無理がある。本件においては、端的に労働基準法4条違反と判断すべきであったのである。
(4)会社の消滅時効の援用を認めた点。
本件事案は、会社が、組織的かつ意図的に女性の資格を据え置き、合併時、女性を著しく不利益に取り扱い、合併後は「職能資格滞留年数」なる裏マニュアルを周知させて男性と比べ、資格及び賃金において差別をしてきたという事案である。このような事案において、女性労働者は、差別を受けているとは感じても、性差別による「損害」を具体的に知ることはできない。
また、労働基準法4条及び均等法8条の趣旨に反する不法行為を秘密裏かつ継続的におこなってきた大企業が、控訴審に至り、消滅時効の援用をすることは信義則に反し、権利濫用というべきである。

4 原告並びに弁護団は、この高裁判決の重大な誤りを正し、憲法14条が規定する男女の法の下の平等原則から導かれる公序にかなった解決をすることを求めて、本日、上告及び上告受理申立てをした。
昭和シェル石油及び日本社会における性差別をなくすため、本事件に関心を寄せてくださった多くの皆さんと共に、今後とも努力を続ける決意である。

                 2007年7月12日

原 告   野  崎  光  枝
弁護士  中  島  通  子
      中  野  麻  美
      菅  沼  友  子
      古  田  典  子 
by chakochan20 | 2007-07-14 23:15 | 活動報告(64)

男女同一価値労働同一報酬


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