バイリンガル脳は認知症になりにくい

ウォール・ストリート・ジャーナル 10月13日(水)8時41分配信

 生涯にわたって複数の言語を話すことは、年を取ってから報われるようだ。最近の研究によれば、バイリンガルの人は認知症の症状を平均4年遅らせることができる。

 複数言語使用は認知症の発症を遅らせるわけではない(複数の言語を話す人の脳もやはり生理的な劣化の兆候を示す)が、複数の言語を話すプロセスは、アルツハイマー病を含む認知症の初期症状によりうまく対処する技能を発達させることができるようだ。

 研究者は長年にわたって子どもを研究し、複数の言語を流ちょうに話すことが、多大な頭脳労働を必要とすることを明らかにした。バイリンガルの子どもや若年成人は、一言語だけ話す人(モノリンガル)に比べ、語彙(ごい)が若干少なく、動物や果物のリストの名前を言うといった特定の言語課題の実行に少し時間がかかった。

 しかし、時がたつにつれ、複数言語の常用は、脳のいわゆる「認知的予備力」という、脳がストレスや損傷を受けたときにでも働く能力を高める技能を強化するらしい。この認知的予備力の増強が、年を取るにつれ、バイリンガルの人の助けになるようだ。

 カナダ・トロントにあるヨーク大学のバイリンガル能力研究者、エレン・ビアリストク博士は、「二つの言語を話すことは、(アルツハイマー病や認知症の)発症を回避することにはつながらない」という。しかし、認知予備力が高まることで、「車の予備タンクと同様、脳の燃料が切れても、少し先まで行ける」ことになるという。

 バイリンガル能力の強みは、具体的には、抑制制御ないし認知制御と呼ばれる脳の機能に関係していると考えられている。これは、ビアリストク博士によると、一つのことに注意を払うのをやめて、ほかのことに集中する能力だ。複数の言語を流ちょうに話す人は、ある言語でコミュニケーションをとっている間、もう一つの言語を黙らせておくために絶えずこの技能を使う必要がある。

 認知的予備力を鍛えるというアイデアは、クロスワードパズルや頭の体操といった、頭を働かせ続けることを何でもやれば、認知症の症状を食い止める助けになるという通俗的アドバイスにつながってきた。しかし、7月に米国立衛生研究所が開催したパネルディスカッションは、そうした活動がアルツハイマー病や関連の認知症を予防すると結論付ける十分な証拠は存在しないと警告した。

 複数の言語を流ちょうに、あるいはほぼ毎日、話さなくても、複数の言語を習得することが有益かどうかは研究者にも分かっていない。

 カリフォルニア大学サンディエゴ校および同大学アルツハイマー病研究センターのバイリンガル能力研究者、タマル・ゴラン博士によると、意欲さえあれば、人は年齢にかかわりなく新しい言語を習得できるという。「しかし、マジックポイント(ゲームなどで使われる能力を回復させるための特別な得点)はない」とゴラン博士は警告する。

 ビアリストク博士は、数十年にわたる研究を、子どもが第二言語をどのように習得するかを調べることから始めた。

 2004年、ビアリストック博士と共同研究者のファーガス・クレイク博士は、30歳から80歳までの、およそ150人のモノリンガルの人とバイリンガルの人における認知作用を調べる三つの研究を開始した。それによると、中年・高年どちらの年齢層でも、バイリンガルの被験者は、一連のコンピューターを用いたテストにおいて、気を散らす情報を一言語だけ話す人よりもうまく遮断することができた。この強みは、より高齢の被験者において一層顕著だった。

 ビアリストク博士によると、ほかの研究も、例えば文章の内容が意味をなさなくとも文章が文法的に正しいかどうかを判断するよう求められるといった、認知制御を必要とするテストにおいて、バイリンガルの人のほうがよい成績を収めることを明らかにしているという。

 04年の研究の研究成果から、ビアリストク博士は、こうした利点が、高齢者の自然な学習能力低下を穴埋めする助けになりうるかどうかに疑問を抱くようになった。

 同博士と共同研究者らは、種々の認知症(三分の二はアルツハイマー病)と診断されていた228名のメモリークリニック患者の医療記録を調べた。07年に『ニューロサイコロジア』誌で発表されたその結果は、バイリンガルの患者では、モノリンガルの人よりも、記憶障害を呈するのが遅いことを示唆していた。

 バイリンガルの患者は、家族が最初に記憶障害に気付く時期や、治療を受けるために患者が初めてクリニックを訪れる時期が、モノリンガルより平均4年遅かった。

 さらに、バイリンガルの患者の記憶力は、クリニックを訪れた時点では、一言語だけ話す人に比べ劣っておらず、また、症状が表れてから、患者が最初に来診するまでの期間にも差はなかった。

 ビアリストク博士と共同研究者らは、その後の研究で、同年齢かつ同じ進行段階にあるモノリンガル(一言語だけ話す人)とバイリンガルのアルツハイマー病患者の脳の画像を調べた。その結果、バイリンガルの人の脳は、生理的にはより悪い状態にあるらしいことが分かった。ビアリストク博士はこれを、バイリンガル能力がアルツハイマー病の進行自体を遅らせるのではなく、記憶障害に対してうまく対処するのを助けることを示唆するものだとしている。

 トロント大学と提携している老化研究機関ベイクレストのロットマン研究所の上級研究員であるクレイク博士らのグループは、こうした結果を年内に発表する予定であるという。

 しかし、複数言語使用(マルチリンガル)能力の潜在的メリットの実像を複雑にするほかの研究もある。モントリオールのメモリー・クリニックでの約600人の患者の医療記録の最近の見直しは、三つ以上の言語に堪能な人と、英語を習得する前にフランス語を習得したバイリンガルの人の場合には、保護的メリットがあることを明らかにした。しかし、英語だけ話す人は、英語を最初に習得したマルチリンガルの人と遜色(そんしょく)なかった。

 この研究グループの1人である、モントリオールのジューイッシュ・ジェネラル・ホスピタルの認知神経学者でマギル大学教授のハワード・チャートコウ氏は、こうした減少が、英語を話す人の遺伝的特徴、栄養状態、ストレス・レベル、生活環境によって説明できる可能性があるとしている。

 バイリンガルについての同様な研究には、ベルギーのゲント大学のウーター・ダイク教授など、欧州の研究者も取り組んでいる。
by chakochan20 | 2010-10-14 11:19 | ニュース(155)

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